【東京新聞・夕刊1面】
誰でもプレーできるリアルな野球盤
3密回避の屋外版を埼玉・横瀬町で初披露
「誰でも野球を楽しめるように」と昨年、かつて流行したおもちゃの野球盤を等身大で再現し、わずかな力でひもを引けばバットでボールを打てる「リアル野球盤」を東京の企業が開発した。事業は好評だったが、屋内を想定した段ボール製のため、新型コロナウイルス禍で3密(密集、密接、密閉)のリスクを負い、活動が止まりかけた。そこへ埼玉県・秩父地方の小さな町の協力で、屋外で使える木製が完成。18日に町の小学校の校庭で披露され、楽しく遊ぶ児童の笑い声が響き渡った。(神谷円香)
◆声援を受け打席へ 「ホームラン」も決めた
季節外れの暖かな晴天に恵まれたこの日、横瀬町立横瀬小学校で、6年生と特別支援学級の児童計90人がチームに分かれて対戦した。ボールが転がった場所によって「一塁ゴロ」「二塁打」など一発勝負で決まり、1人ずつ打席に立つ度に全員が声援を送った。見事「ホームラン」を決めた高梨乃愛さん(12)は「みんなの前で緊張していたけど、応援があって良かった」とはにかんだ。
「ユニバーサル野球」の名で商標登録したこの野球盤は、鉄道車両整備会社「堀江車輌電装」(千代田区)の所沢営業所で障害者スポーツ支援事業に携わる中村哲郎さん(52)が中心となって開発した。自分でバットが振れない障害のある子も野球ができるよう仕組みを考え、昨年3月に両翼約5メートルの試作品が完成。宮城県の会社が作る丈夫な段ボールを用いるなど改良後、特別支援学校などに活用してもらってきた。
だがコロナ禍で、今年予定したイベントはすべて無くなった。持ち運んで組み立てやすいよう、段ボールをパズルのように組み合わせた構造のため雨風に弱く、屋外で使うのが難しい。「子どもが入院する病院での開催予定もあったのに流れてしまった」。屋外でやるには素材を変え、一から作り直すしかなかった。
◆小さな町での大きなチャレンジ
中村さんが屋外用の検討を始めたころ「日本一チャレンジする町」を掲げる横瀬町が、企業や個人が実現したいプロジェクトを支援する「よこらぼ」を人づてに知った。以前からユニバーサル野球の普及には「行政の協力が欠かせない」と考えていた。
よこらぼは、資金ではなく町の遊休資産や人材の提供が基本。地域の人材を活用する試みは7月に採択され、町が募ったボランティアとともに製作を始め、小学生から高齢者、町の若手職員まで25人が参加してくれた。
横瀬小の児童たちに「ユニバーサル野球」の遊び方を説明する中村哲郎さん(手前右)
塗装業を60年務めていた福島徳三さん(81)は、木材の切り出しから塗装までずっと携わった。披露の日も朝から組み立てを手伝い、「子どもの声を聞くだけで良い」と遊ぶ児童たちの姿を目を細めて見ていた。島崎孝夫校長(60)は「運動会は半日で、修学旅行も日帰りになった。6年生の思い出づくりにも良い企画を頂いた」と喜んだ。
屋外用は木材をねじで留め合わせるなどの作業が必要で、屋内用より手間と時間がかかる。運ぶのも重く、屋内用は中村さんが1人でワゴン車に載せ、運べるが、屋外用は人手もいる。だが屋内での実施がまだ難しい以上「これでやっていくしかない」と腹をくくる。
「よこぜユニバーサル野球場」を囲み記念写真する中村さんや児童たち
ユニバーサル野球開発のきっかけは、車いす生活だが野球好きの男の子。でも障害のある人だけでなく、高齢者や野球に詳しくない人も簡単にプレーでき、応援し合えるのが魅力だ。中村さんは「どこで活用してもらっても良い」と、コロナ禍にめげず普及に努めている。
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